《相談員が解説します》老人ホームの「ここが知りたい」
ホームを選ぶということ
「崇高な仕事」
この言葉は私が数年前まで施設長として勤めていた老人ホームのご入居様から頂いたお言葉です。
このご入居者様は独身の女性で80歳を機に自らホーム入居の申込をされました。ご病気があった訳でもなく、介護が必要な状態でもなく、身の回りのことは入居後もすべてご自身でされるような、いわゆる「自立」の方でした。
この方、事あるごとに私のところに来てはホームのサービスについてやスタッフの言動について様々なご指摘をされ、それに対してホームとしての対応、施設長としての見解を求められ、私としては正直「あ、また来たか」と思ってしまうこともありました。

ある日のこと、夕食も終わり入居者の皆様は就寝準備に入り、私も事務所で残務処理をしていた時、事務所のドアをノックする音があり振り返ると「ちょっと話したいことがあるの」といつものようにこの方がいらっしゃいました。「あ、きた」と心の中で呟いてしまいつつ、応接室でお話を伺うといつもとは違いご自身のことについて語り始めました。
「私がなぜホームに入居したか話しておきますね。昔のことになるけど私たちが生きてきた時代は本当に大変な時代だったの。戦争でなにもかも失って一日一日を生きるため必死に働いてきたの。私は結婚しなかったからとにかく自分が生きていくためにずっと働いてきたの。そうやって貯めてきたお金でこのホームに入居したのよ。80歳まで一人で頑張ってきて。いままで精一杯やってきたからこれから残りの人生は自由に楽しいことをいっぱいやりたいの。だから楽しい思い出だけをお土産にあの世にいくのよ。その思い出作りをあなたがたに手伝ってもらうの。だからあなた方の仕事は崇高な仕事なのよ。」
この話を聞いた瞬間に自分のなかでなにかが動き始めたような気がしました。
ホームの施設長の職を離れたいま私がしている仕事は、入居者様と直接向き合うことはありません。しかし私がホームを選定しそこに入居されるということは、その方の人生のエピローグに携わる「崇高な仕事」であると思っています。

【文/後藤 拓(ごとう たく)】
ベネッセの介護相談室 相談員
<介護支援専門員>
私たちにご相談頂くケースは様々です。怪我やご病気で入院し退院後はご自宅での生活が困難な方、在宅での家族介護に限界を感じている方、将来的にホーム入居を考えている方など、検討理由はまさに十人十色……続きを見る