
【第3回】骨粗しょう症
(監修:林 泰史先生)
骨粗しょう症は男性より女性に多く、65歳以上の女性の約半分が発症しています。骨祖しょう症は、自覚症状がとぼしいため、知らないうちに骨折のリスクが高まっています。骨折で歩行が困難になり、要介護状態になってしまう場合が少なくありません。日頃から予防をして定期健診で骨の状態をチェックしましょう。診断を受けたら、薬による治療や運動・食事療法に地道に取り組むことが欠かせません。
林 泰史(はやし やすふみ)先生

1964年京都府立医科大学卒業。米国テキサス大学骨代謝科留学などを経て、東京都老人医療センター院長、東京都リハビリテーション病院院長などを歴任。2015年原宿リハビリテーション病院名誉院長に就任。骨粗しょう症治療の第一人者で、「骨の健康学」(岩波新書)など著書多数。日本リウマチ学会指導医、日本リハビリ学会専門医、日本老年病学会指導医等を務めた。
骨粗しょう症の定義とそのリスク▶骨折しやすい状態

骨粗しょう症とは
以前は「骨密度が70%以下」になると骨粗しょう症と診断されましたが、骨密度が高くても骨質の状態が悪ければ骨折しやすくなることがわかってきました。現在では「骨の強度が低くなり骨折しやすい状態」を骨粗しょう症としています。
何より怖い骨折のリスク
骨がもろくなっても命にかかわることはありませんが、骨粗しょう症による骨折がきっかけで要介護状態になる人が少なくありません。健康寿命(介護を必要としない期間)を1日でも伸ばすために、骨粗しょう症対策は欠かせないのです。
骨粗しょう症の原因▶「原発性」と「続発性」の2種類がある
原発性骨粗しょう症
主に加齢によって引き起こされます。女性は閉経を機に骨密度が低下するため、特に女性に多くみられます。
①65歳以上の女性の約半分が骨粗しょう症
女性の骨密度は50歳前後から急速に低下します。加齢によって腸からのカルシウムの吸収力が悪くなるのも一因ですが、閉経期に骨を壊す細胞の働きを抑制する女性ホルモンの分泌が低下することも大きな原因。自治体の定期健診などで小まめに骨の状態をチェックし、日頃から予防に努めましょう。
②無理なダイエット、運動不足、カルシウム不足も原因に
骨粗しょう症は「骨の生活習慣病」と呼ばれ、運動不足や食生活におけるカルシウム不足も原因になります。また10代の成長期に無理なダイエットなどで栄養不足だった経験があると、骨がもともと弱い可能性があります。思い当たる場合、特に早めの対策が必要です。
続発性骨粗しょう症
特定の病気や、服用している薬が原因で、骨の強度が低下することによって起こります。
①糖尿病や腎臓病などと密接に関連
糖尿病や腎臓病をはじめ、副甲状腺の疾患、関節リウマチ、動脈硬化などの持病がある場合、骨粗しょう症を合併しやすくなります。これらの病気では骨代謝に影響するホルモンの不足、骨形成に必要な細胞の異常、骨質を劣化させる物質の増加などによって、骨がもろくなってしまうことがわかってきました。
②ステロイド剤の長期使用がある場合
関節リウマチや気管支ぜんそく、膠原病などの持病があって、ステロイド剤を長く使っている場合、50%もの確率で骨粗しょう症を発症するという報告があります。このため骨密度が高いうちから治療を開始することがすすめられています。
骨粗しょう症の症状▶気づかないうちに背骨や腰で進行

自覚症状が乏しい
もろくなった骨が体の重みでつぶれてしまう「圧迫骨折」は、痛みを伴わないこともあります。「背中が丸くなる」、「身長が縮む」などの症状は背骨の圧迫骨折が原因ですが、少しずつ進行するため、気づくのが遅れがち。日ごろから自己チェックや、自治体などが実施する骨密度測定を行うよう心がけてください。
最初は背骨や腰に発症
骨密度の低下は全身に均等に起こるのではなく、関節など骨の膨らんでいる部分に集中して起こります。このため背骨や腰の骨折リスクは他の部分より大きくなります。「背骨の圧迫骨折によっていつの間にか背が縮む」、「転倒によって腰の骨を折る」などの事例が多いのはこのためです。
骨粗しょう症チェックリスト▶一つでも当てはまれば受診して
次のような症状があれば、骨粗しょう症の可能性があります。
日頃から自己チェックを行い、あてはまることがあれば、医療機関などを受診し、早めに対策を講じましょう。


- 背が縮んだように感じる
- 身長を計測したところ、以前より4cm以上縮んだ
- 背中や腰が曲がったように感じる
- まっすぐに立った時、鼻が胸より前に出ている
- 背中や腰が痛む。そのため動作がぎこちない
- 腰が痛いが、レントゲン検査では椎間板や脊柱管に異常がない
- 姿勢が悪くなり、以前着ていた服が似合わなくなった

治療法、予防法で大切なことは
骨粗しょう症の治療法▶薬の服用と併せて食事・運動療法を
骨粗しょう症と診断された場合、薬の治療が中心となります。薬が効果を発揮すれば、骨折のリスクは半分にまで減るといわれています。薬はいくつかありますが、年齢や骨密度、副作用などを考慮して、状況に応じて使い分けられています。
「骨の生活習慣病」である骨粗しょう症は、薬の服用に加え食事療法や運動療法を地道に続けていくことが欠かせません。これらを併せて進めることで骨折のリスクは相乗的に減らせます。
治療に使われる主な薬
SERM(サーム:塩酸ラロキシフェン、バゼドキシフェン) | 骨に対しては女性ホルモンのエストロゲンと似た作用があり、骨密度を増加させますが、乳房や子宮など、骨以外の臓器には影響を与えません。また脳卒中や癌のリスクも減らせることがわかっており、60歳位の女性が服用するのに適した薬として評価が高まっています。 |
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活性型ビタミンD製剤 | 食事で摂取したカルシウムの腸管からの吸収をよくする働きがあります。また骨吸収(骨が壊される過程)と骨形成(骨が新しく作られる過程)という骨の新陳代謝のバランスも調整します。 |
ビスフォスネート製剤 | 骨吸収を抑制することにより骨形成を促し、骨密度を上げる作用があります。骨粗しょう症の治療薬のなかでは、最も多く使われている薬です。胃腸にダメージを与える副作用があるため、服用時には注意が必要です。 |
副甲状腺ホルモン製剤 | 骨吸収を促す副甲状腺ホルモンを断続的(とぎれとぎれ)に投与することで、逆に骨形成が促される作用を利用した薬。長期間の使用には不向きなので、80代後半の患者さんが短期的な効果を狙って服用することが多いようです。 |
骨代謝マーカーで骨の状況をチェック
「骨代謝マーカー」とは、尿や血液を採取し、骨形成と骨吸収がどの程度行われているかを調べる検査です。これにより、どんな薬を服用するか決めたり、薬の効果を確認したりして、治療に役立てます。
患者さんの2~3割しか薬を継続して飲まないのが現実

日本全国に骨粗しょう症の患者さんは1300万人近くいると推定されていますが、そのうち薬を継続して服用しているのは約300万人で、全体の2~3割に過ぎません。
これだけ薬を飲まない人が多い理由の一つは「結果の見えにくさ」。血圧や血糖値と違い、骨の強度は服用して半年経たないと明らかな効果が見えてきません。また骨粗しょう症は前述の通り、自覚症状が乏しい病気。我慢できない痛みを抱えているわけではないので、服用が面倒になってしまうのでしょう。骨粗しょう症の怖さは骨折してからわかりますが、骨折してからでは遅いのです。80歳を過ぎて骨折で苦しまないために、60~70代のうちから地道な予防や治療に取り組む必要があります。
骨粗しょう症の予防法▶ふだんの生活をちょっと改善してみよう
食 事ふだんの食事に「カルシウム200mg分」をプラス
厚生労働省が推奨するカルシウム摂取量は1日600~650mg。ところが日本人は1日平均550mgの摂取にとどまっています。そこで「いつもの食事にあと200mg追加する」と考えるといいでしょう。200mgのカルシウムをとるには、乳製品、海産物、大豆製品などが手軽です。骨密度を増加させる効果のあるビタミンKを多く含む食材もおすすめです。
200mgのカルシウムをとるには……

運 動1日35分歩くと骨折のリスクが半減

骨密度を上げるには、骨に負荷を与えることが大事。そのためにおすすめなのは歩くこと。一日最低でも7000歩は歩くといいのですが、生活のために3000歩位歩いているとすると、それに加えて毎日35分くらい歩く必要があります。アメリカでは「1日35分以上歩いている人は、そうでない人より骨折する割合が半減する」という調査結果もあります。もし歩く時間がとれないなら、両手でバランスを取りながら片足で立ってみたり、お相撲さんのようにしこを踏む動作をしたりしても効果があります。
【まとめ】
骨粗しょう症は自覚症状が乏しく、危機意識を持ちにくいため、診断後も治療が中断することが多い病気です。しかし骨粗しょう症による骨折は、要介護状態のきっかけとなりかねません。骨折のリスクを理解し、生活習慣の改善や薬による治療を根気強く続けることが大事です。
イラスト/本田葉子

