トップページ >  お役立ち情報 >  知っておきたい高齢者の病気 >  第5回 不眠症

【第5回】眠症
(監修:井上 雄一先生)

60歳代から不眠を訴える割合が高くなり、80歳代では3人に1人が不眠だと感じるようになります。これは、加齢とともに眠りが浅くなり、分断されやすくなること、眠りのリズムと関連したホルモン「メラトニン」の分泌量が減ることが影響しています。不眠は高血圧やうつなどを引き起こしやすく、適切な治療を受けることが必要になります。予防法としては、適度な運動や食生活などの生活習慣を整えることですが、「少しくらい眠れなくても気にしない」という大らかな心を持つこともが大切です。

井上 雄一(いのうえ ゆういち)先生

井上 雄一(いのうえ ゆういち)先生

1982年東京医科大学卒業、1987年鳥取大学医学部神経精神医学助手、1994年同講師、1999年順天堂大学医学部精神医学講師、2003年から代々木睡眠クリニック院長、2008年から東京医科大学「睡眠学講座」教授、2011年より睡眠総合ケアクリニック代々木理事長。睡眠障害の診療や研究を専門とし、この分野の第一人者として活躍。日本睡眠学会理事、日本自律神経学会評議員などを務める。著書に「眠りを治す―熟睡できるハウツー&治療」(小学館、2008年)などがある。

不眠症の原因高齢者がなりやすい理由は大きく4つ

高齢になるほど不眠で悩む人が多くなります。その理由は大きく4つ。複数の要因が重なり合って不眠になることも多いようです。

生理的に眠りが浅い

人間は夜になると自然と眠くなります。これはメラトニンというホルモンの働きにより、体の深部の体温が下がることと関連しています。メラトニンは高齢期に入ると分泌量が著しく減ります。また睡眠の加齢による変化として、夜中に何度も目がさめたり(中途覚醒)、若い頃より眠りが浅くなるという現象が自然に起こります。また高齢になると運動量が減り、必要な睡眠時間が減る人も多いようです。ただし、昼間元気に活動できるなら、睡眠時間が多少短くなっても、あまり気にする必要はありません。

体内時計の振幅が小さい

人間には1日周期でリズムを刻む「体内時計」が備わっており、意識しなくても日中は活動状態に、夜は休息状態に切り替わります。しかし加齢によりこの体内時計の振幅は徐々に小さくなっていくため、昼間は眠くなりやすく、夜は目が覚めやすくなるのです。また高齢者の体内時計は前にズレやすく、早く寝て早く起きてしまう人も多くなります。体内時計は早朝に光を浴びると前にズレ、夕方に光を浴びると後ろにズレます。そのため、早朝覚醒傾向が強い人は、朝日を浴びずに午後から夕方に散歩をするのがよいでしょう。

ストレスに対する反応が大きい

高齢になるほどストレスに対する心身の反応が大きくなります。家族の病気や生活のことなどの心配事があると、不安や緊張で体調を崩したり、眠れなくなったりすることがあります。たとえ心配事が解決しても、不眠の症状だけは残ってしまうこともあるので注意が必要です。

持病が増える

高齢になると肩が痛い、腰が痛い、胃が悪い、血圧が高いなど様々な持病を抱えている人が少なくありません。慢性的な不調や痛みがあったり、痛みによって寝返りができないことなどが原因で安眠できない状態が続いたりすると、不眠になる割合も高くなります。4つ以上の持病を抱えていると不眠症になるリスクは高まるといわれています。

不眠症のリスク高血圧、糖尿病、うつなどを引き起こす

不眠の負のスパイラル

高齢者の不眠は、不眠そのものの弊害以外にも心身に様々な影響を及ぼす恐れがあります。たとえば血圧が上がり高血圧になる、血糖のコントロールが悪くなり糖尿病になる、免疫力が低下して風邪をひきやすくなる、気分が沈みうつになる、などのリスクが考えられます。もともと高血圧や糖尿病の持病があると、さらに進行して心筋梗塞や脳卒中を引き起こす可能性もあります。
また「睡眠不足は太る」とも言われます。睡眠の不足により食欲に関するホルモンバランスが崩れ、肥満につながりやすいのです。不眠による肥満がさらなる運動不足や高血圧、糖尿病などを引き起こすという「負のスパイラル」も起こりえます。不眠症は早めに改善しましょう。

治療開始の目安昼間の生活に支障が出たら早めに受診

不眠症はどのタイミングで治療を開始すればいいか、明確な線引きはできません。また不眠が続いても、病院を受診しない人も多いようです。しかし特に高齢者の場合、不眠症によって引き起こされるリスクは深刻です。下記のチェックリストの症状があり、昼間の生活に支障があるようなら、早めに専門の医療機関を受診しましょう。

チェックリストチェック
鉛筆
  • 夜、十分眠れない
  • 「今夜も眠れないかもしれない」「眠らなければ」と不安やこだわりが強くなり、ますます眠れなくなる悪循環に陥っている
  • 昼寝が長すぎる(1日1時間以上)
  • 気分がさえない
  • 疲れやすい
  • 風邪をひきやすくなった
  • 集中力や判断力が低下している
治療法、予防法で大切なことは

治療法、予防法で大切なことは

不眠症の治療法生活習慣の改善、薬の治療、カウンセリング

眠りにくい、夜中に目が覚める、早く起きてしまうなどの不眠の症状を感じたら、まずは生活習慣を見直すことから始めましょう。それでも症状が改善されない場合、専門の医療機関に受診し、治療を開始します。
薬による治療が一般的ですが、最近ではカウンセリングなどで成果を上げているケースもあります。

生活習慣の改善

スムーズに眠りに入れなくなる理由としては、年齢にかかわらず生活習慣の乱れがあります。そこでまず、自分の生活に見直せる点がないかチェックし、できることをやってみましょう。たとえば、運動量が少ないなら毎日30分のウォーキングを始めてみる、お茶やコーヒー、タバコなどの眠りにくくなる嗜好品は就寝前はやめる、寝酒はやめる、就寝前のパソコンやテレビ、携帯電話などの視聴をやめるなどです。こうした細やかな生活の見直しで、眠れるようになることも少なくありません。

薬の治療

薬の種類

■メラトニン受容体作動薬
脳内のメラトニン受容体に作用し、体内時計を整える作用があります。体温を下げて活動状態から休息状態へ切り替えることで、スムーズな入眠を可能にします。寝ようとしても、なかなか寝付けない人に向いている薬です。

■オレキシン受容体拮抗薬
脳の覚醒にかかわるオレキシンという脳内物質がオレキシン受容体に結合することをブロックする作用があります。夜の覚せい状態を抑えることで、夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)や朝早く目が覚める(早朝覚醒)などの症状を抑えます。

■ベンゾジアゼピン系睡眠薬・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
脳のGABA受容体に作用し、鎮静作用や抗不安作用などにより、脳の働きを休ませて眠りに導きます。深いリラクゼーション効果がありますが、筋力を落とすなどの副作用が出ることがあるため、使用する際には注意が必要です。

以前は不眠症の治療薬により、筋肉が弱ってしまい転びやすくなるなどの副作用が問題になりましたが、近年状況は改善し、安心して服用できる薬が多く普及しています。信頼できる医師の指示に従って、症状や状態に適した薬を正しく使うことが大切です。睡眠薬は半年~1年継続して服用すると、依存性が高まってやめられなくなるリスクがあります。段階的に減らし、不眠症がよくなったら服用をやめることを前提に、スタートすることが望ましいでしょう。また高齢者は代謝が低下しているため、昼間も眠けが残るなどの不調が起こりやすいので、服用スタート後も様子を見ながら調整することが必要です。

カウンセリング治療

不眠症の原因は複合的で、多岐にわたっているため、生活習慣の改善や薬による治療だけでは治らないことがあります。また不眠症で悩んでいても「薬を使いたくない」「薬をやめたい」というニーズもあります。そのような場合、きめ細やかなカウンセリング治療(認知行動療法)によって改善する道があります。この治療は自由診療で、行っている医療機関はまだ少ないですが、今後広がっていく可能性のある注目の治療法といえます。

不眠症の予防法大らかに構え、健やかな生活を心がける

眠れないことを気にしすぎない

高齢になると、「なかなか眠れない」「夜中に目が覚める」「朝早く目が覚める」という現象はある程度自然なことです。「今日も眠れないかもしれない」「なんとしても寝なければ」などと不安やストレスを募らせるとますます症状が悪化してしまうことがあります。昼間、目を覚まして日常生活を支障なく送れるなら、あまり深刻に考えないことも大事です。

生活習慣を整える

睡眠の健康を保つ12カ条
①朝起きたら、カーテンを開け、日光を取り入れる
②休日の起床時刻は平日と2時間以上ずれないようにする
③1日の活動は朝食から始める
④昼寝をするなら、午後3時までの20~30分以内にする
⑤軽い運動習慣を身につける
⑥お茶やコーヒーは就寝4時間前までにする
⑦就寝2時間前までに食事を済ませる
⑧タバコは就寝1時間前までにする
⑨就寝1~2時間前に、ぬるめのお風呂に入る
⑩部屋の照明は明るすぎないようにする
⑪寝酒はやめる
⑫就寝前のパソコン、テレビ、スマホ、テレビゲームは控える

<参考資料>睡眠障害の診断・治療ガイドライン作成とその実証的研究班「睡眠障害の対応と治療ガイドライン2014年

よりよい眠りを実現するには右に紹介する、睡眠の健康を保つ12カ条を参考にして、生活習慣の改善に努めましょう。すべて実行するのは難しくても、一つずつ、できることから始めることが予防につながります。

【まとめ】
不眠症は高齢になるほど起こりやすい身近な病気ですが、高血圧や糖尿病、うつなどを引き超す恐れもあります。昼間の生活に支障が出るほどの不眠が続いたら、専門の医療機関に受診し、適切な治療を行いましょう。

イラスト/本田葉子

0120-86-8165
0120-86-8165