
【第7回】圧迫骨折
(監修:市村 正一先生)
骨粗しょう症などで骨がもろくなるとちょっとした外傷でせぼねが押しつぶされるように変形してしまいます。これが圧迫骨折です。閉経後の女性は骨密度が急速にさがり、圧迫骨折のリスクが高まります。最初の骨折を予防することが大事。骨折してしまったら、早めの治療を心がけて。放っておくと次々と骨折する骨折の連鎖が起こり、まれに麻痺や、逆流性食道炎などの合併症が起こるリスクもあります。
市村 正一(いちむら しょういち)先生

1955年新潟市生まれ。1980年慶應義塾大学医学部卒業、1982年慶應義塾大学医学部整形外科助手。1994年米国ワシントン大学へsenior fellowとして留学、1997年 慶應義塾大学医学部整形外科医長、2009年杏林大学医学部整形外科教授、2015年杏林大学医学部付属病院副院長。腰椎(ようつい)・頚椎(けいつい)・胸椎椎間板(きょうついついかんばん)ヘルニアや、骨粗しょう症をはじめとする脊椎・脊髄(せきつい・せきずい)疾患を専門とする。脊椎・脊髄疾患に関する一般向けのガイドブックや医療者向けのガイドラインの策定にも携わる当分野のエキスパート。日本整形外科学会専門医、日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄外科指導医。
圧迫骨折の原因・症状▶もろくなったせぼねがつぶれて変型
圧迫骨折とは、骨がもろくなってしまったことが原因でせぼねが押しつぶされるように変形してしまう骨折のこと。骨粗しょう症が原因で起こることが多く、高齢者に多い骨折です。特にせぼねは体の重みを支えきれず、つぶれるように骨折することがよくあり、専門的には椎体(ついたい)圧迫骨折といいます。尻もち、くしゃみ、植木鉢などを持ち上げるなどのちょっとしたきっかけで椎体がつぶれてしまうのです。24個あるせぼねのなかでも背中にあたる胸椎はたとえ骨折しても肋骨に支えられているため、痛みを感じない場合もあります。しかし最初の椎体圧迫骨折を放っておくと次の骨折が発生しやすく、後弯(こうわん)変形や慢性腰痛の原因となり、さらには死亡率を高めることがわかってきました。「高齢だから仕方ない」などとあきらめず、積極的な予防や治療が必要です。
1位 せぼね(脊椎)/65歳位から増加
2位 大腿部(脚の付け根)/75歳位から増加
3位 手首/55歳位から増加
転んだときなどに手首を折る人が増えるのが閉経後の55歳頃。その後徐々にせぼねの骨折が増え、転んでも手で支えられず尻もちをついてしまう75歳位から大腿部(だいたいぶ)骨折が増加。

骨粗しょう症などにより、骨がもろくなるとせぼねは体の重みを支えきれず、押しつぶされるように骨折してしまう。
骨粗しょう症との関係▶予備軍でも骨折のリスクは高まる

左のグラフはアメリカの統計データです。骨密度が低いほど骨折頻度が高くなることがわかります。しかし骨粗しょう症とまで診断されない骨量減少の段階で実際の骨折数が多いことがわかります。このため骨密度が骨粗しょう症と診断された場合はもちろん、予備軍といえるような境界線にいる人たちも、骨折のリスクは高まっていることを自覚し、予防に努めることが大切です。
「最初の骨折」を予防することが一番大事!
椎体の圧迫骨折は、最初の1つがつぶれると、連鎖的に次の骨折が起こり、次々と骨折してしまうことが多くあります。そうなる前に「最初の骨折を予防する」ことが何より大事です。特に女性は閉経直後に骨密度が急速に低くなるので、閉経したら必ず骨密度などの検査を行い、早めに薬などの治療を始めることが大切です。
圧迫骨折チェックリスト
▶いつもと違う腰の痛みの大部分は圧迫骨折が原因
高齢者が急な腰の痛みを感じたとき、その大部分は椎体圧迫骨折が原因だといわれています。転んだりしなくても生活動作で骨折することもあります。おかしいと思ったら、すぐに専門の医療機関を受診するように心がけましょう。
以下のいずれかの項目が該当したら、圧迫骨折の可能性があります。


- 腰や背中にいつもと違う痛みがあり、3日以上続いている
- 体を動かすと痛いが、じっとしているとそれほど痛みは感じない
- 以前より背中が丸くなり、猫背になった
- 1番身長が高かった時に比べて2㎝以上低くなった
- 胸やけ、胃もたれ、食欲不振、息切れ、便秘などがある(骨折により内臓が圧迫されるため)
- 痛い部分をたたくと痛みが増す
- 骨粗しょう症と診断を受けた
※圧迫骨折と似た症状で、解離性動脈瘤(かいりせいどうみゃくりゅう)、多発性骨髄腫(たはつせいこつずいしゅ)など、別の病気が原因の場合もあります。こうした病気のリスクも念頭においておきましょう。

治療法、予防法で大切なことは
圧迫骨折の治療法▶保存療法で治らない場合、手術が必要

圧迫骨折の治療法としては、まずベッドの上で安静にしたり、コルセットやギブスを装着する保存療法があります。これで治る場合も多いのですが、長期間ベッドで安静にしていると、高齢者の場合、著しい筋力低下や認知障害につながることがあり、この治療法がふさわしくないこともあり注意が必要です。
保存療法で治らない場合、骨粗しょう症の治療薬であるテリパラチド注射によって骨形成を促すと、症状が改善することがあります。こうした保存治療の効果がない場合、手術となります。せぼねのすぐ後ろにある脊髄(せきずい)を骨折した骨が圧迫している場合、脊髄を傷つけないように金属製のねじや棒で骨を固定する固定術を行います。神経症状がない場合、骨折した椎体(ついたい)に骨セメントと呼ばれる物質を充填し、安定化させるBKPという手術が行われる例が増えています。
注目される新しい治療法BKP




圧迫骨折の合併症▶下肢まひ、尿失禁、逆流性食道炎なども

骨折した椎体を放置しておくと、数週間から数カ月かけて徐々に押しつぶされたせぼねが脊髄を圧迫して、麻痺症状が出ることがあります。たとえば足首が動かなかったり、排尿障害になったりすることもあります。椎体圧迫骨折による麻痺は痛みが少ないため、X線撮影で骨折が見逃されることや、脳梗塞などと診断されてしまうこともあります。これにより、重症化し寝たきりの原因になることもありますので注意が必要です。
また椎体圧迫骨折は、骨が押しつぶされてぺしゃんこになったり、連鎖して骨折が起こったりすることで、背骨が変形してしまいます。これにより、猫背や前傾姿勢が慢性化し、内臓が圧迫され逆流性食道炎や心肺機能の低下などにつながることもあります。こうなると大がかりな手術が必要になりますので、深刻な事態になる前に治療することが求められます。
圧迫骨折の予防法▶骨粗しょう症の治療や生活習慣の改善を
圧迫骨折を予防するために、一番大事なのは骨粗しょう症の予防です。骨粗しょう症のリスクがある場合や、骨粗しょう症と診断を受けた場合は、すみやかに治療を開始することが大切です。そのほかにも日頃の運動や食生活で心がけたいことを紹介します。
女性は閉経後、必ず骨密度測定&骨代謝マーカー検査を

※DXA(デキサ)検査 イメージ図
〇早めに骨の状態を知る
女性は閉経後、急速に骨密度が下がります。この時期は必ず骨密度を測定しましょう。その際かかとではなく、腰椎や大腿骨の骨密度を正確に測定できるDXA(デキサ)検査がおすすめ。また骨の代謝の状態がわかる骨代謝マーカー検査も同時に行ってください。骨密度がたとえ正常でも骨の強度が低くなっている場合もあります。
〇薬を飲んで「最初の骨折」を予防
骨粗しょう症と診断された場合はもちろん、その予備軍である骨量減少場合も、薬を飲んで対策をスタートすることをおすすめします。薬は破骨細胞(はこつさいぼう)の働きを抑制するタイプと、骨形成を促すタイプの大きく2種類があります。医師と相談し、ふさわしい薬を継続して服用しましょう。そして定期的に骨密度検査を行い、治療効果を確認してください。
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ロコトレで転倒防止
骨、関節、筋肉などの働きが衰え、要介護状態や要介護になるリスクが高まっている状態がロコモティブシンドロームです。この対策の一つであるロコモーショントレーニング(ロコトレ)は転倒予防に役立ちます。左右1分間ずつ片足で立つことを1日3回行います。必ず机やテーブルなど、つかまるものがある場所で行いましょう。簡単なので負担なく続けることができます。
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乳製品を意識してとる
骨形成に役立つのはカルシウム、たんぱく質、リンなどです。それらを効率よくとれる食品が乳製品。牛乳、ヨーグルト、チーズ、バニラアイスクリームなどを意識して食事に取り入れるといいでしょう。
毎日歩いて筋肉を鍛える
筋肉を鍛えるために一番いいのは歩くこと。1日8000歩が理想ですが、70-80代になっていきなりそれは無理な場合も多く、転倒のリスクが増えるのも事実。自分のコンディションやペースに合わせて、たとえば1日1000歩くらい歩いていたなら1200歩と、200歩ずつを目安に少しずつ増やしていきましょう。
【まとめ】
骨粗しょう症などで骨がもろくなっていると、軽度の外傷でも押しつぶされるように骨が折れてしまいます。高齢になると体の重みを支えきれず椎体圧迫骨折が起こりやすくなります。BKPなど新しい手術法が普及していますが、骨折の発見が遅れたり、気づかずにいると、神経麻痺や逆流性食道炎、排尿障害などの合併症も起こります。「最初の骨折」を予防するために、女性は閉経後必ず骨の状態を検査し、早めに対策を始めてください。
イラスト/本田葉子

