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【第8回】齢者の肺炎
(監修:前崎 繁文先生)

高齢者にとって、肺炎はとても身近な病気です。しかし高齢になるほど熱や咳・痰などの症状が出にくく、進行が早いため、生命の危険があります。周りにいる人は、「なんとなく元気がない」、「食欲がない」などのわずかな変化を見逃さず、早めに受診を促しましょう。予防のためには、雑菌が繁殖しやすい口腔内をいつも清潔に保つことや、肺炎球菌・インフルエンザの予防接種を欠かさないことなどが大切です。

前崎 繁文(まえさき しげふみ)先生

前崎 繁文(まえさき しげふみ)先生

埼玉医科大学病院感染症科・感染制御科診察部長、教授。専門は感染症学、感染制御学、呼吸器内科学。
日本内科学会評議員、日本感染症学会評議員、日本臨床微生物学会理事などを務める。著書に「感染症はこう叩け! -抗菌薬使いこなしのコツのコツ (レジデントのための薬物療法)」(2013年、中山書店刊)などがある。

高齢者の肺炎の原因高齢化の進行で年々死亡者数が増加

肺炎の年齢階級別死亡率

かつて日本人の死因の1位だった肺炎は、戦後に抗生物質が登場したおかげで死亡者数が急激に減り、4位にまで下がりました。ところが1980年以降再び増えはじめ、特に65歳以上の高齢者が多くなっています。この背景には日本の高齢化があり、今後も高齢者の肺炎がますます増えていくことは間違いないでしょう。高齢者にとって肺炎はとても身近で、そして怖い病気です。特に心臓や呼吸器に持病のある人、腎不全、肝機能障害、糖尿病などがある人は、肺炎にかかりやすいうえ、症状も重くなる傾向があります。

高齢者の肺炎の症状熱、咳、痰が出にくく見逃しがち

なんとなく元気がない

肺炎というと高熱が出るイメージがありますが、高齢者の場合は、そうしたわかりやすい症状が現れにくく、発見が遅れてしまうことがよくあります。また進行が早いのも高齢者の特徴。いつもと様子が違ったら、周囲の人が「肺炎かも?」と疑って、早めに受診することが重症化を防ぐ第一歩です。

□熱が出にくい

健康な人は、体に侵入した細菌などの異物を排除するために熱を出します。ところが高齢になると、免疫機能が落ちており異物に立ち向かうために熱を出す力そのものが弱くなっています。そのため肺炎になっても熱が上がらず、毎日検温していても見逃されやすいのです。

□咳や痰が出にくい

一般的な肺炎の症状としては、咳や痰がありますが、高齢になると咳や痰を出す力も弱まります。実は咳は、脳が指令を出すことによって出ています。脳梗塞などで咳を司る神経が麻痺している場合、特に注意が必要です。

□進行が早い

高齢者が肺炎になると、脱水症状や栄養不足になりやすいため、若い人より進行が早くなりがち。また糖尿病などの持病があるとそのリスクはさらに高まります。熱もなく、咳や痰も出なくても、なんとなく元気がない場合、肺炎を疑ってみましょう。

高齢者に多い「誤嚥性(ごえんせい)肺炎」とは?

誤嚥性肺炎とは本来食道を通って胃に入るはずの食べ物の一部や、唾、痰などが気管に入り込み、一緒に病原菌も入り込んでしまうことによって起こります。原因は嚥下(えんげ)機能の低下。脳梗塞の後遺症、神経障害、パーキンソン病、認知症などによって起こります。
実は高齢者に起こる肺炎の多くは誤嚥性肺炎です。症状や治療法は一般的な肺炎と変わりませんが、肺炎の治療ができても、嚥下機能の根本治療はできないため、繰り返し肺炎を起こしてしまうことになります。誤嚥性肺炎を予防するためには、日頃から口の中を清潔にし、食後すぐには横にならないことなどを心がけてください。

高齢者の肺炎チェックリスト
いつもより元気がないときは要注意

高齢者の肺炎は熱や咳、痰などの症状が出にくく、見逃されがちです。普段から見守っている家族や介護者が、「いつもと違う」「なんとなく元気がない」と気づくことが第一歩になります。熱や咳がなくても「肺炎かもしれない」と疑う心構えを持ってください。

チェックリストチェック
鉛筆
  • いつもより元気がない
  • いつもより口数が少ない
  • いつもより食欲がない
  • 全身のだるさがある
  • 微熱、少量の痰がある
  • 食事中や食後に急に呼吸が苦しくなる(誤嚥性(ごえんせい)肺炎の場合)
治療法、予防法で大切なことは

治療法、予防法で大切なことは

高齢者の肺炎の診断法血液検査、X線検査、喀痰検査で診断

肺炎の診断方法

肺炎が疑われる場合は、炎症反応を調べる血液検査、肺に影がないかを調べる胸部X線検査、痰の中にどんな細菌がいるかを調べる喀痰(かくたん)検査の大きく3つの検査を行い、総合的に判断します。ただし高齢者の場合、血液検査では炎症反応が弱くてわかりにくい場合が多く、X線検査でも今までの病気の傷痕や別の病気の合併などにより判断しにくいことがよくあります。また喀痰検査は結果が出るまで早くても2~3日かかるうえ、どんなに詳しい検査をしても4割ぐらいは原因が突き止められないのが現状。このため病院では症状や年齢、病歴などから原因菌のあたりをつけて、いわゆるエンピリック治療(経験的知識に基づいた治療)をすることが多いのです。

高齢者の肺炎の治療法抗生物質の投与が基本

抗生物質の投与が主な治療

抗生物質の投与

肺の炎症を抑えるため、ペニシリンなどの抗生物質の投与が主な治療になります。高齢者は肺炎球菌が原因であることが多いですが、それより多いのは菌が特定できないケース。その場合、いろいろな菌に効果があるとされる「広域抗菌薬」が使われます。しかしこれを多用することで、緑膿菌やMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)など、多くの薬が効かない耐性菌が発生してしまうことが社会的に大きな問題になっています。

耐性菌の感染予防はこまめな手洗い

耐性菌が発生しやすいのは救急病院など急性期の病院です。しかし急性期病院から介護療養型の慢性期病院や介護施設へ菌の保有者が移動し、そこで感染が広がるケースが多いのも現実です。感染対策のためには、どんなときでも手洗いやうがいを小まめに行うことが欠かせません。

高齢者の肺炎の予防法口腔内ケアや予防接種が効果的

高齢者の肺炎を防ぐには、口の中を清潔に保つこと、予防のワクチンを接種することの大きく2つがあげられます。ほかにも風邪をひかないように規則正しい生活や適度な運動を心がけるなど、日頃から注意が必要です。

口の中を清潔に保つ

口の中を清潔に保つ

口の中は雑菌が繁殖しやすいので、常に清潔にしておくことが大事です。就寝前は口の中をすすぎ、丁寧にブラッシングをしましょう。訪問サービスや介護施設でのサービスを利用し、定期的に歯科衛生士などによる口腔ケアを行うこともおすすめです。また食事そのものも誤嚥(ごえん)しにくいように、飲み込みやすい食事にしたほうがよいでしょう。

ワクチンの定期接種とインフルエンザの予防接種

ワクチンの定期接種とインフルエンザの予防接種

高齢者の肺炎で多いのが肺炎球菌による肺炎です。このため肺炎球菌ワクチンの接種は効果的。現在65歳以上の高齢者を対象に5年ごとの定期接種には公費助成がありますので、65歳になったら必ず接種を受けましょう。肺、心臓などに持病がある場合、それより若くても早めに受けることをおすすめします。また単独では効果が薄れるので必ず年に1回、インフルエンザワクチンの予防接種も併せて受ける習慣をつけましょう。

【まとめ】
高齢者の肺炎は症状が出にくく、進行が早いため、いつもより元気がなかったらすぐに肺炎を疑って病院を受診する心構えが必要です。治療には抗生物質が使われますが、耐性菌の問題で治療が難しいケースもあります。また高齢者の場合、嚥下(えんげ)機能の低下による誤嚥性(ごえんせい)肺炎も増加。脳梗塞、パーキンソン病、認知症などの持病がある場合、特に注意してください。予防のためには口腔内を清潔に保ち、定期的にワクチンを接種しましょう。

イラスト/本田葉子

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